代償ヨン。はやかです。...うーーーん最後の終わり方が気にくわない! 笑

「ギシッ...」
ゆっくりと足をつけたつもりだったが、かなり古いのか床が軋む。
社殿の中は狭く、5畳ぐらいの部屋が肩幅程度開けた扉から入る強い夕日の光で壁から床までオレンジ色に染まっていた。
壁には所々布切れのようなものが吊るされている。そして一番奥の中央には、よく神社の隅にあるミニチュア神社、摂社のような木製のもの
があり、近くには色々な小物が床に置いてあった。適度に掃除されているのか、年季が入っている割には床や小物などにホコリは被っていない。
床に膝をつけ、まずは花瓶のようなものを手に取り中を覗いてみた。
...何も入ってなさそうだ。だとすると、中に何か入れられそうな物は...これしかない。
その隣には黒い漆塗りの箱があった。絶対にこれだ。もうここからは全て予想がついてしまうほど、この状況に麻痺している自分が何よりも恐ろしい。
俺はそっと箱の蓋を持ち上げた。
「...はぁ...だよな...」
そこにはつい数日前目にしたものと同じものが並べられていた。そして、何もかもが予想通りの展開で、まるで誰かの手の内で転がされてるかのようで気味が悪い。
そして箱の中には5つあるはずの物が4つしか並べられていなかった。
...もう1つを探せってことか?数日前に落ちてきた物がこれか?....いや、違う。どう見てもこの前のものより相当古い。臭いも全くしてこない。だとするとあの落ちてきたものは前に住んでいた人の物か...
そう考えただけでも吐き気がしたが少し冷静になり、次に恐怖で身が震える。ここに無い1本の「ソレ」はまだどこか別の場所にあるという事だ。ここまでくれば金田一少年でもコナンでもなくても分かる。
あのマンションのどこかにあるはずなんだ。だがどこにあるかなんて全く見当がつかない。前の入居者が心霊スポットとしてここに訪れて悪戯で持ち出したのかもしれない。盗むやつも大概だが鍵をかけない神主の気が知れない。
そんな事を考えていると、オレンジ色に染まっていた部屋が突然暗くなる。まるで何かが、開いている扉の前に立ち、外からの光を遮ったかのようだった。
とっさに振り向くと強い夕日の光が目に刺った。
とにかくここを出よう。それからなんとかあの残りの1本を...いや、あいつには悪いがすぐにでも40万の件を取り消して退去させてもらう方法を考えよう。これ以上関わる必要は無いよな。
扉をしっかり閉め、俺は振り向かずに早歩きで神社をあとにした。そしていつものファミレスへ向かう。ネカフェでもよかったが、今はファミレスのあの雰囲気に絶対的な安全を感じる。
スマホを開くとさっき調べていた指切神社の情報が載ったサイトが表示された。もう腹いっぱいだが少し気になってまたスクロールしてみる。
すると、ふとスクロールする指が止まった。
「たかなし...」
それは「小鳥遊」と書いて「たかなし」と読む、かなり珍しい苗字が書かれていた。普通はこんな苗字読めるはずもないが、俺には読めた。
「あいつ以外にこんな苗字の人間居たんだな...」
まさに大家に脅されているであろう友人の苗字だった。そしてそこには小鳥遊家の詳細まで記載されていた。
小鳥遊家は村の土地を占める大富豪であり、村長や神主までも小鳥遊家であった。そして「指なし子」を毛嫌う風習を創りあげた発端でもあったと言われているが、そもそも「指なし子」自体は元々小鳥遊家からの遺伝ではないかとも言われている。
「...あいつにこれ見せたらビックリするんだろうな...」
なんて思いながらも少し不安になる。本当にあいつは何にも知らなかったのか、と。苗字がたまたま同じだったと言ってもあの気味悪い事故物件の事はどうにも説明つかない。マンションだってすぐ近いし、なんなら未だに神主もこの辺りの地主も小鳥遊家かもしれない。
「...何か吐かしてその後に半殺しにしてやる。」
人の恩を仇で返した罪は重いからな、小鳥遊よ。
サイトを閉じ、そいつに電話してみるとワンコールで電話に出た。
「もしもし、どうした?」
「小鳥遊、お前指切神社って知ってるか?」
「あー...調べた感じ?」
「調べた感じ。大家とはどういう関係なんだよ。」
「...どうもこうも俺が大家みたいなもんだよ、まぁ管理やら頼まれてるだけで正式には俺の親族のものなんだけど。」
「...なんかもう驚けないな、ここまでくると。土地に建物まで持ってるのか。」
「工事とかして掘られて人骨でも見つかったりしたら面倒くさいだろ。土地の価値が下がるかもだしさ。未だに出てくるんだよな。」
「あっそ、あと神社であの気味悪く大事にされてるやつよ、1本無くなってたんだけど見つかってないのかよ。」
「...本当によく調べたね...あったよ、でも元に戻してもまだ出てくるってお前が教えてくれたから...多分もう意味無い。」
「今度会ったらお前の指切って神社にでも備えといてやるよ。とにかく俺は今すぐ荷物取りに行ってあの部屋出るから。あとは自分で解決しろよ。」
「今すぐって...もう夜になるぞ?今どこにいるんだよ。」
「ファミレスだよ。なんなら荷物整理ぐらいお詫びにお前がしろよ...ったくよ。」
電話を切り、急いで部屋へと向かった。こんなものからいち早くも足を拭いたかった。
部屋に着き、ドアを開けると21度で付けっぱなしにされた冷房が効いていて涼しかった。
少し前に新たにできたトラウマがよみがえり、なるべくベランダを見ないようにしながらスーツケースを取り出して開いた。すると
「.......っ!!...お...ぉ..れの....ゆ..び....が...っ.....」
スーツケースを掴んだ右手の指が骨が無いかのようにぐにゃぐにゃに曲がっていた。そしてゆっくり、ゆっくりと、動き始めると、指と指の間から更に指が生えてくる。
「やめろ...!!いやだ!やだやだやだやだ!!」
ぐにゃぐにゃと動きながら指からも指が生えてくる。次から次へと生えてくる。止まらない。お願いだから止まってほしい。ぐにゃぐにゃぐにゃぐにゃぐにゃぐにゃぐにゃぐにゃ。
止めないと。
台所へ向かい、シンク下の収納扉を左手で開く。
どうにかしないと。
左手で包丁を掴むと、剣を握った勇者のような妙な勇気と自信が湧いてきた。ざまぁみろ、これで終わりだ。
荒い息を押し殺し、左手を振り上げ、思いっきり人差し指らへんのつけ根に向かって包丁を突き立てた。
不思議な事にまるで最初から骨すら入っていなかったかのように包丁が入り、人差し指から沢山生えていた指が一瞬で消え、ゴトリと人差し指1本が床に落ちた。痛みも何も感じない。今なら全て退治できる。
中指、薬指、小指、そして最後に親指。全て切り落とすと先程見えていたものはいなくなった。これで自由だ。
すると、包丁を持っている左手の指の変化に気づく。ぐにゃぐにゃと動き始めると、ゆっくりと指から指が生えてきた。
終わった。
もう右手で包丁も持つこともできない。このままどんどん指が生えてくるのを見ている事しかできない。最後にはどうなってしまうのだろう。
人間ではない者になってしまうのだろうか。
やだな。
左手を振り上げると、思いっきり腹へ向かって包丁差し込んだ。
やっぱり痛くない。膝から床へと崩れ落ちると、視界がぼやける中でまだ生きていることに驚く。首を刺しておけばよかった。
ドンドンドン
「おーい、いるのかー......」
ガチャ
「よかったー。まだあった...これからはお前がこの忌み地を守るんだ。...大事にするよ...約束しよう。」
うん、約束。